社会権関係の定義集

Pocket

 

【社会権】

 

〔生存権25条〕

 

★★★ 社会権 社会国家(福祉国家)の理想に基づき、とくに社会的・経済的弱者を保護し、実質的平等を実現するために保障されるに至った人権 芦部(第6版)267頁
☆☆ 生存権 私的自治の原則の修正によっても生存さえままならない社会経済的弱者に対し、「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する権利 読本(初版)213頁
☆☆ 憲法25条の裁判規範性(プログラム規定説、判例) 25条は、国民の生存を確保すべき政治的・道義的義務を国に課したにとどまり、個々の国民に対して具体的権利を保障したものではない、とする見解(朝日訴訟判決) 芦部(第6版)269頁、読本(初版)214頁
憲法25条の裁判規範性(抽象的権利説) 生存権の内容が抽象的で不明確である事から、25条1項を直接の根拠にして生活扶助を請求する権利を導き出すことはできないが、25条1項は、国に立法・予算を通じて生存権を実現すべき法的義務を課している、と考える立場。この立場からは、生存権は、具体化する法律が制定されて初めて具体的権利となる。 芦部(第6版)269頁、読本(初版)214頁
憲法25条の裁判規範性(具体的権利説) 生存権の具体化は第一次的には国会に委ねられているとしても、国会が生存権の具体化義務を履行しない、あるいは不十分にしか履行しない場合、立法不作為の違憲確認訴訟を提起しうる、とする立場。生存権の内容は、具体的給付を認める程には条文上具体化されていないが、立法不作為の違憲を確認しうる程度には具体化されている、という理解を前提としている。 読本(初版)214頁
憲法25条の裁判規範性(棟居説) 「健康で文化的な最低限度」以下と明らかにいえる部分については、25条1項を直接の根拠として具体的給付まで認める立場。「健康で文化的な最低限度の生活」の内容は、ある程度までは客観的に確定可能であり、生存権の少なくとも最低限度の内容については、立法による具体化を待つまでもない、という理解を前提としている。 読本(初版)215頁
☆☆ 「健康で文化的な最低限度の生活」(25条1項)の具体的内容(判例) 時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきもの(堀木訴訟判決) 芦部(第6版)270頁
憲法25条の解釈(1項2項分離論) 憲法25条2項は、事前の積極的防貧施策をなすべき努力義務を国に課したもので、1項はそれにも関わらず、なお落ちこぼれた者に対し、国は事後的、補足的かつ個別的な救貧施策をなすべき責務のあることを宣言している、という理論。2項については広い立法裁量が認められるが、1項については「健康で文化的な最低限度の生活」という絶対的基準により厳格な審査が行われる、という帰結になる。 読本(初版)217頁
憲法25条の解釈(有力説) 1項は主観的権利としての生存権を、2項は主観的権利に対応する国の責務を規定したものとして、1項と2項を一体のものと解し、1項のなかに、審査の厳格度を異にする、「最低限度の生活」の保障を求める権利と、「より快適な生活」の保障を求める権利の両方が含まれている、とする。 読本(初版)217頁
☆☆ 制度後退禁止の原則 白紙の状態での制度の創設と異なり、制度の後退の場合は立法裁量が限定され、正当な理由のない後退は禁止される、という原則。現状を生存権保障のベースラインとする一種の既得権論で、現在の立法者を過去の立法者の意思により拘束するものである。 読本(初版)219頁

 

〔教育を受ける権利26条〕

 

★★★ 学習権(判例) 国民各自が、一個の人間として、また、一市民として、成長、発達し、自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする固有の権利。特に、みずから学習することのできない子どもが、その学習要求を充足するための教育を自己に施すことを大人一般に対して要求する権利(旭川学テ事件判決)。 芦部(第6版)273頁、読本(初版)221頁
公教育 国公立であれ私立であれ、国家の設営する法制度によって規律されている学校教育 読本(初版)222頁
「無償」(26条2項、判例・通説) 教育の対価としての「授業料」不徴収を意味する 芦部(第6版)276頁、読本(初版)222頁
「無償」(26条2項、有力説) 教科書、教材費、学用品など、修学に必要な一切の費用 読本(初版)222頁
教育内容決定権の所在(国民教育権説) 子供の学習権に対応する責務として、親を中心とする国民全体の教育権を認め、国家の介入を、教育の諸条件整備といった外的事項に限定し、教育内容といった内的事項については、大綱的基準を設定するほかは指導・助言にとどまるべき、とする。 読本(初版)223頁
教育内容決定権の所在(国家教育権説) 現代公教育においては教育の私事性は捨象され、議会制民主主義の下で国民の総意は法律に反映されるから、国は法律に準拠して公教育を運営する責務と権能を有する、とする。 読本(初版)223頁
★★★ 教育内容決定権の所在(判例) 子供の学習権に対応し、その充足を図りうる立場にある者の責務として、親、私学、教師それぞれに教育の自由を憲法上の根拠に照らして認め、国家にも、子供自身の利益擁護のため、あるいは子供の成長に対する社会公共の利益と関心に応えるため、必要かつ相当と認められる範囲において教育内容を決定する権能が認められる、とする(旭川学テ判決)。 読本(初版)223頁
☆☆ 国の教育内容決定権の限界(判例) 子供が自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような国家的介入、例えば、誤った知識や一方的な観念を子供に植え付けるような内容の教育を施すことを強制することは、憲法26条・13条により禁止される(旭川学テ判決) 読本(初版)223頁
教師の教育の自由の性格(人権説) 教師という職業に付随した自由であって、大学教員の自由とパラレルに捉える事ができ、専門性に基づく専門職能的自由である、とする。教師の教育の自由が憲法上の権利であること、大学の自治とパラレルに、教師集団の自律性を基礎づけることが帰結として導かれる。ただし、教師という特定の集団にのみ認められる権利であるため、本来の人権とは区別されるべきものである。 読本(初版)224頁
教師の教育の自由の性格(職務権限説) 教師は子供との関係では、学校教育制度という一定の制度の枠組みにある限りで、権限及び義務を有するに過ぎず、「教師の教育権」は憲法上の権利ではなく、実定法律上の職務権限である、とする。 読本(初版)224頁
教師の教育の自由の性格(併存説) 教師が生徒と向き合う場面では、教師の教育権はもっぱら権限であり、教師が国家権力と向き合う場面では、職務権限としての側面と、人権としての側面を併せ持つ、とする。 読本(初版)224頁

 

〔労働基本権28条〕

 

「勤労の権利」(27条1項) 労働の意思と能力のある者が私企業において労働の機会を得られない場合に、国家に対し労働の機会の提供を要求し、それが不可能な場合にはそれに代わる保護を要求しうる権利 読本(初版)227頁
勤労者 労働力を提供して対価を得て生活する者 芦部(第6版)277頁
☆☆ 労働基本権(労働三権) 団結権、団体交渉権、団体行動権(争議権) 芦部(第6版)277頁、読本(初版)227頁
☆☆ 団結権 労働者の団体を組織する権利(労働組合結成権)。労働者を団結させて使用者の地位と対等に立たせるための権利である。 芦部(第6版)277頁、読本(初版)227頁
☆☆ 団体交渉権 労働者の団体が使用者と労働条件について交渉する権利。この交渉の結果締結されるのが、労働協約であり、この協約に反する労働契約は無効になる。 芦部(第6版)277頁、読本(初版)227頁
☆☆ 団体行動権 労働者の団体が労働条件の実現を図るために団体行動を行う権利である。争議行為が中心であり、正当な争議行為については刑事責任と民事責任が免除される。 芦部(第6版)277頁、読本(初版)227頁
生産管理 争議行為の方法として、労働組合が企業施設等を管理し、使用者の指揮命令権を排除して企業の経営を行うこと。使用者の財産権を侵害するものとして違法と解されている(山田鋼業事件判決)。 読本(初版)229頁
労働基本権の性格 ①社会権として、国に対して労働者の労働基本権を補償する措置を要求し、国はその施策を実施すべき義務を負う。②自由権として、労働基本権を制限するような立法その他の国家行為を国に対して禁止する。③使用者に対する関係で、労働者の権利を保護することを目的とする。すなわち、その性質上、使用者は労働者の労働基本権の行使すべき義務を負うのであり、労働基本権の保障は私人間の関係に「直接」適用されるべきことになる。 芦部(第6版)277頁、読本(初版)228頁
ユニオン・ショップ協定 採用後一定期間内に労働組合に加入しない者や、脱退者、除名者を解雇する労使間の協定。一定限度を超えない限りは、この協定の効力も団体権保障の効果として有効と解されている。 読本(初版)228頁
☆☆ 労働組合の統制権の存否と限界(判例) 労働組合は、憲法28条が団結権を保障していることから、組合の目的を達成するために必要かつ合理的な範囲内で、組合員に対する統制権を有する。ただし、この統制に反する事を理由に公職の選挙に立候補した組合員を処分することは、統制権の限界を超えるものとして違法である(三井美唄炭坑労組事件判決)。 読本(初版)228頁

 

 

 

☆☆ 25条の法的効力(プログラム規定説) 25条は政府に対して政治的・道徳的義務を課しただけで、国民は義務の履行を裁判上請求できない、とする考え方 渋谷「論じ方(第2版)」162頁、小山「作法(第3版)」119頁
25条の法的効力(具体的権利説) 25条は政府に対して法的義務を課したものであり、国民は義務の履行を裁判上請求できる、とする考え方。憲法25条1項の権利内容は行政を拘束するほど明確ではないが、立法権を拘束するほどには明確であるとし、立法不作為の違憲確認訴訟による救済が可能である、とする。 渋谷「論じ方(第2版)」162頁、小山「作法(第3版)」119頁
25条の法的効力(抽象的権利説) 国民は25条に基づき、抽象的権利をもち、直接、憲法25条を根拠に立法不作為・行政不作為を裁判で争うことは出来ないが、生存権を具体化する制定法が存在する場合には、その法解釈を通じて裁判所における救済(憲法25条違反)を主張できる、とする考え方。ただし、抽象的権利説の中でも最近の有力説は、立法不作為を違憲国賠訴訟で争う方途を認めている。 渋谷「論じ方(第2版)」162頁、小山「作法(第3版)」119頁
☆☆ 団結権 労働条件の維持・改善のために使用者と対等の交渉ができる団体(労働組合、争議団)を結成したりそれに参加したりする権利(=労働組合結成権) 渋谷「論じ方(第2版)」180頁
☆☆ 団体交渉権 労働者の団体がその代表を通じて労働条件について使用者と交渉する権利 渋谷「論じ方(第2版)」180頁
☆☆ 団体行動権 労働者の団体が労働条件の実現をはかるために団体行動を行う権利 渋谷「論じ方(第2版)」180頁
消極的団結権 団体に加入しない権利、または団体から脱退する権利。かつては、消極的団結権は保障されていない、とする解釈が有力であったが、現在では、消極的団結権を部分的に認める見解が有力となっている。 小山「作法(第3版)」25頁
☆☆ 労働基本権の法的効力 労働基本権の行使につき、①争議行為や労働放棄に対して刑罰を科せられないこと(自由権の側面)、②(ア)政府が実効的救済措置(特に行政的救済制度)を用意すべきこと、(イ)正当な争議行為は解雇や損害賠償の原因とは出来ないこと(社会権の側面)が保障されている。 渋谷「論じ方(第2版)」180頁
☆☆ 公務員の労働基本権制約の正当化理由(判例) ①勤務条件は国会の法律・予算の議決により民主的に設定されること、②私企業の争議行為と異なり市場抑制力が無いこと、③人事院など制度上整備された代償措置が講じられていること等が挙げられる(全農林警職法事件判決)。 渋谷「論じ方(第2版)」182頁
☆☆ 「教育を受ける権利」(26条1項) 政府に対して教育の条件整備や機会保障を積極的に配慮すること、つまり作為を請求する権利。社会権的性格を持つ。 渋谷「論じ方(第2版)」203頁
主権者教育権 政治の担い手となるべき能力を備える権利。この概念の登場は、民主主義の実質化のための政治教育の重要性を指摘した意義を有する。 渋谷「論じ方(第2版)」203頁
☆☆ 学習権 人間・市民として成長・発達し人格を完成・実現する権利 渋谷「論じ方(第2版)」203頁
☆☆ 積極的権利 不作為請求権である防禦権とは反対に、国に対して一定の作為を要求する権利。憲法25条1項の生存権などがこれにあたる。 小山「作法(第3版)」116頁
☆☆ 積極的権利の二重の未確定性 ①防御権は、制限が必要最小限度であることを求めるが、それに対して積極的権利は、通常、可能な限り最大限の作為を国家に求めるものではない、という未確定性(内容・程度の未確定性)、②作為請求権の履行に当たっては、通常、複数の手段が存在し、手段の選択は、国の裁量にゆだねられる、という未確定性(手段・仕組みの未確定性、手段選択の余地、(作為請求権という権利の)構造上の余地) 小山「作法(第3版)」117頁
☆☆ 積極的権利の審査 基本的には、作為義務の内容は何であるかの確認と、国による作為義務履行の程度(完全な不作為の場合を含む)が憲法の要請する最低限度を下回っていないかの確認という2段階で行われる。また、積極的権利の二重の未確定性が存する限り、積極的権利の審査は、原則として、明白な違反のみが違憲になるという緩やかな基準で行われる。ただし、①確定性が比較的高い権利(国家賠償請求権(17条)、損失補償請求権(29条3項)など)の場合や、②法律による具体化がなされた場合などは、権利の確定性・具体性の高さに比して、審査密度が厳しく設定される。 小山「作法(第3版)」121頁、122頁、123頁
生活保護の給付水準(マーケットバスケット方式) 最低生活に必要な飲食物費や衣類など個々の品目を積み上げて算出する方式。昭和23年から35年にかけて採用された。 小山「作法(第3版)」118頁
生活保護の給付水準(エンゲル方式) 栄養所要量を満たしうる食品を理論的に積み上げ、低所得世帯のエンゲル係数から逆算し算出する方式。昭和36年から39年にかけて採用された。 小山「作法(第3版)」118頁
生活保護の給付水準(格差縮小方式) 一般国民との格差を縮小するため、一般国民の消費水準の伸び率以上に引き上げる方式。昭和40年から58年にかけて採用された。 小山「作法(第3版)」118頁
生活保護の給付水準(水準均衡方式) 生活保護において保障すべき最低生活水準は、一般国民の生活水準との関係において捉えられるべき相対的なものとされていることから、当該年度に想定される一般国民の消費動向等を踏まえて改定する方式。昭和59年から現在にかけて採用されている方式。 小山「作法(第3版)」118頁
☆☆ 制度後退禁止原則(規範存続の保障) 法律でひとたび抽象的な権利の内容が具体化されたならばその法律は憲法と一体化し、憲法的効力を持ち、具体化された法規範の存続を保障する。それゆえに、具体化された制度の後退・廃止に対して、通常の防御権と同様の不作為請求を肯定する(自由権的基本権と同等の審査を求める)か、あるいは、それに至らぬまでも慎重な判断過程審査を求める、という原則。 小山「作法(第3版)」125頁、126頁
☆☆ 制度後退の審査 今日の立法府が過去の立法府の政治的判断に拘束されるべきではなく、制度後退それ自体に必要性・合理性を求めるのは筋違いである(制度後退禁止原則の否定)。そこで、①裁量判断の過程・手続、②激変緩和措置の2点に関し裁量権の逸脱・濫用の有無を審査することになる(判例)。 小山「作法(第3版)」126頁